属人化はベテランの証拠ではない。会社の大きなリスクである
製造業の現場では、「この仕事はあの人にしかできない」という言葉を耳にすることがあります。
難しい機械を扱える人、特殊な加工ができる人、長年の経験を持つ人。そのような人は、周囲から「ベテラン」と呼ばれ、高く評価されることも少なくありません。
しかし、本当にそうでしょうか。
私は長年、製造業で働いてきましたが、「その人にしかできない」という状態は、決して理想的なものではないと考えています。
むしろ、会社にとって大きなリスクになることもあります。
今回は、属人化について私自身の経験を交えながら考えてみたいと思います。
属人化はパワーバランスを崩してしまう
属人化によって最初に起こる問題は、特定の人に権限や責任が集中することです。
仕事が一人に集中すると、その人がいなければ業務が進まなくなります。
その結果、
- この人に聞かなければ分からない
- この人が休むと仕事が止まる
という状況が生まれます。
このような状態になると、周囲は意見を言いにくくなります。
場合によっては、指導する側が優越的な立場になり、高圧的な態度を取ることもあります。
一方で、逆の問題もあります。
会社から、
- あなたしかできないのだから頼む
- あなたがいないと困る
という形で、過度な責任を押し付けられることもあります。
属人化は、人間関係そのものを歪める可能性があるのです。
技術が停滞する原因にもなる
属人化には、もう一つ大きな問題があります。
それは、社内の競争原理が働かなくなることです。
一人しかできない仕事では、比較する相手がいません。
もっと効率の良い方法があるかもしれません。
もっと品質を向上できる方法があるかもしれません。
しかし、比較する対象が存在しなければ、改善する機会そのものが失われてしまいます。
その結果、
「今までこの方法でやってきたから」
という理由だけで、同じ方法が続いてしまうことがあります。
複数の人が同じ仕事を担当すれば、お互いのやり方を比較できます。
その比較が改善につながり、技術の向上につながります。
しかし、属人化された職場では、そのような機会が失われてしまうのです。
少人数しかできない仕事は、必ず限界がくる
私は以前、NCルーターを使った加工を担当していました。
機械は2台あり、それぞれに担当者が1人ずつ配置されていました。
NCルーターは自動運転が可能です。
そのため、一見すると誰でも操作できそうに見えるかもしれません。
しかし、実際はそうではありません。
加工中には、切り粉が原因で加工面に問題が発生することがあります。
刃の状態を確認しなければならないこともあります。
予想していなかった動作が発生することもあります。
状況によっては、機械を停止させなければなりません。
機械の異常を放置すると、不良品が発生するだけではなく、設備の破損や事故につながる可能性もあります。
ボタンを押して機械を動かせることと、機械を安全に運転できることは、まったく別の話なのです。
教育には時間と人員が必要である
NC機械を操作するためには、NCプログラムの基本知識が必要です。
そして、その知識を実際の作業で使えるようになるまでには、ある程度の時間が必要になります。
新人教育では、「分からなかったら呼んで」と指導すること自体は、それほど珍しいことではありません。
実際、新人でも異音や加工面の異常など、「何かおかしい」と気付くことは十分に可能です。
試し加工を行い、「完成した製品が見本と違っていたら呼んでください」と指示することもできます。
しかし、それだけでは十分ではありません。
教える側が別の作業をしていて、すぐに対応できない状況は非常に危険です。
教育を行うためには、経験者がすぐに対応できる環境を作る必要があります。
つまり、人材育成には時間だけではなく、人員も必要になるのです。
しかし、私が働いていた会社では、教育のために人を割くことを経営側があまり望んでいませんでした。
その結果、本格的な後継者の育成は行われませんでした。
短期的に見れば、人件費を抑えるという判断だったのかもしれません。
しかし、その結果として、限られた人しか仕事ができない状態が長期間続くことになりました。
手順書があれば解決するわけではない
当時、基本的な操作手順書は作成されていました。
しかし、それだけでは十分ではありませんでした。
2台のNCルーターは同じメーカー製でしたが、導入時期が大きく異なっていました。
一方はかなり古い8軸タイプで、もう一方は刃をマガジンに取り付け、必要に応じてチェンジャーによって自動交換できる比較的新しいタイプでした。
同じメーカーの機械であっても、仕様が異なれば、対応できるプログラムも変わります。
片方では動くプログラムが、もう片方では動かないこともありました。
使用できるコードが異なることもありました。
さらに、それぞれの機械には独特の癖がありました。
もちろん、そのような情報も文章として記録していました。
しかし、NCの基本知識がない人にとっては、その文章を理解すること自体が難しいのです。
ここに、技術継承の難しさがあります。
マニュアルを作ることと、人を育てることは同じではありません。
技術には、文章だけでは伝えきれない部分が存在するのです。
本当のベテランとは何だろうか
私は、ベテランとは単に技術を持っている人ではないと思っています。
本当のベテランとは、人を成長させられる人ではないでしょうか。
- 経験から得た知識を言葉にして伝える
- 後輩をより高いレベルへ導く
- 問題が発生したときには冷静に対応する
- ミスをリカバリーする
- 必要であれば責任を引き受ける
そのような人が職場にいると、大きな安心感があります。
私は、「自分しかできない」という状態を作ることがベテランの証だとは思いません。
むしろ、「自分がいなくても仕事が回る仕組みを作れる人」こそ、本当のベテランなのではないでしょうか。
まとめ
教育にはコストがかかります。
記録を残すことにも時間がかかります。
しかし、それを怠れば、会社はさらに大きなリスクを抱えることになります。
- 担当者が休む
- 退職する
- 突然働けなくなる
その瞬間に仕事が止まってしまう会社は、決して強い会社とは言えません。
本当に強い会社とは、特定の人の能力に依存する会社ではなく、知識や経験を組織全体で共有できる会社ではないでしょうか。
属人化は、短期的には効率が良く見えるかもしれません。
しかし、長期的に見ると、会社の成長を妨げる大きなリスクになるのです。
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属人化を防ぐためには、技術を教えるだけでなく、図面や品質情報などを記録し、誰でも確認できる仕組みを作ることも重要です。
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