製造業で見積もりを出していると、「もう少し安くならないか」と言われることがあります。
価格交渉そのものは珍しいことではありません。
私も見積もりに関わる中で、値下げを求められる場面を何度も経験してきました。
ただ、材料費や外注費などが上がっている状況でも、以前と同じように値下げを求められることがあります。
そんなときに思うのが、
「価格だけを下げ続けて、本当に品質を維持できるのだろうか」
ということです。
もちろん、企業としてコスト削減は必要です。
しかし、価格・品質・納期は完全に別々のものではありません。
どこか一つに強い負担をかければ、別の部分に影響が出る可能性があります。
今回は、製造業における価格と品質の関係について、私自身の購買や品質管理の経験も交えながら考えてみます。
値下げ交渉そのものが悪いわけではない
最初に言っておきたいのは、値下げを要求すること自体が悪いという話ではありません。
購入する側としては、できるだけ安く仕入れたいと考えるのは自然なことです。
複数の会社から見積もりを取り、価格を比較することも普通に行われています。
また、製造する側にも改善できる部分はあります。
作業方法を見直したり、材料の使い方を工夫したり、無駄な工程を減らしたりすることで、品質を落とさずコストを下げられる場合もあります。
こうした改善によるコスト削減なら、会社にとっても顧客にとってもメリットがあります。
問題は、改善できる余地とは関係なく、価格だけを下げ続けることです。
私は購買のとき、むやみに値下げ交渉をしなかった
私自身、以前は購買の仕事もしていました。
そのときは、上司や社長から特に指示された場合を除き、自分からむやみに値下げ交渉をすることはありませんでした。
これは、値下げ交渉そのものを否定していたからではありません。
私の中では、取引先から提示された見積価格には、その会社が必要な品質を安定して確保しながら仕事を続けるための条件も含まれているのではないか、という考えがありました。
もちろん、これは私個人の考え方です。
すべての見積価格が適正だと言い切るつもりもありませんし、交渉によって品質を落とさず価格を下げられる場合もあると思います。
ただ私は、取引先も商売として適正な利益を確保しながら見積もりを出している、とある程度信頼して仕事をしていました。
そのため、合理的な理由もなく価格だけを下げ続ければ、どこかに無理が出るのではないかという感覚を持っていました。
材料なのか、作業時間なのか、検査なのか。
どこに影響が出るかは分かりません。
だからこそ私は、価格だけを見ることには慎重でした。
価格を下げても必要な作業はなくならない
例えば、ある製品を作るために、
- 材料を購入する
- 加工する
- 組み立てる
- 検査する
- 梱包する
- 出荷する
といった作業が必要だったとします。
販売価格を下げたからといって、これらの作業が自動的になくなるわけではありません。
材料も必要です。
設備も動かさなければなりません。
作業する人も必要です。
製品によっては検査工程も必要になります。
つまり、価格だけを下げても、製品を作るために必要なコストまで同じ割合で下がるとは限りません。
その差は、どこかで吸収する必要があります。
最初に削られやすいのは「見えにくい部分」
私が品質管理の仕事をしていて感じるのは、品質に関わる仕事には、製品そのものには見えない作業が多いということです。
例えば、
- 検査
- 記録
- 設備の点検
- 作業者への教育
- 不具合原因の調査
- 再発防止
などです。
これらは、直接製品の形になる作業ではありません。
しかし、品質を安定させるためには必要な仕事です。
価格への圧力が強くなり、会社に余裕がなくなると、こうした「すぐには売上につながらない作業」に十分な時間をかけにくくなる可能性があります。
検査を省略すれば、短期的には時間を減らせるかもしれません。
教育の時間を減らしても、その日は製品を作れます。
設備点検を少し先延ばししても、すぐには問題が起きないかもしれません。
しかし、こうした積み重ねが長期的に品質へ影響する可能性があります。
値下げの負担を現場だけで吸収すると無理が出る
価格を下げたとき、その負担がどこへ行くのかを考える必要があります。
会社の利益を減らして吸収する場合もあります。
作業時間を短縮する場合もあります。
より安い材料へ変更する場合もあります。
残業を増やして納期を守る場合もあるでしょう。
どの方法が正しいかは、会社や製品によって違います。
ただし、現場の努力だけで吸収し続ける方法には限界があります。
「もっと早く作れ」
「材料は今までと同じ」
「品質も落とすな」
「納期も変えるな」
「でも価格は下げてほしい」
という条件が続けば、どこかに無理が出ます。
品質を守るには、品質を守れるだけの時間と仕組みも必要です。
安いことと得をすることは同じではない
購入する側から見ても、単価だけで判断することには注意が必要だと思います。
例えば、安く購入できても、
- 不良が増える
- 納期が安定しない
- 修理や交換が増える
- 問い合わせやクレーム対応が増える
ようになれば、結果として別のコストが発生します。
購入価格だけを見ると安くても、製品を使用するまでの全体で考えると高くなることもあります。
これは「高い会社から買えば品質が良い」という意味ではありません。
高くても品質が悪い会社はあるでしょうし、安くても改善を重ねて高品質を維持している会社もあります。
重要なのは、なぜその価格で提供できるのかを見ることだと思います。
値下げするなら「何を変えるか」も一緒に考える
価格を下げる必要があるなら、単純に「同じものをもっと安く作ってほしい」とするだけではなく、条件そのものを見直す方法もあります。
例えば、
- 材料を変更できないか
- 必要以上に厳しい仕様になっていないか
- 加工工程を減らせないか
- 納期に余裕を持たせられないか
- 発注数量をまとめられないか
- 梱包方法を簡素化できないか
などです。
こうした条件を発注側と製造側で話し合えば、品質を維持しながら価格を下げられる可能性があります。
一方的に単価だけを削るよりも、こちらの方が長期的には双方にメリットがあると思います。
製造側も「値上げだから仕方ない」で終わってはいけない
もちろん、製造する側にも責任があります。
材料価格などが上がったからといって、何も考えずそのまま価格へ転嫁すればよいというものでもありません。
改善できる工程はないか。
不必要な作業はないか。
不良や手直しによる損失を減らせないか。
発注方法を変えることで仕入れ価格を下げられないか。
こうした改善は常に必要です。
そのうえで、企業努力だけでは吸収できない部分について、価格を相談するという順番が大切だと思います。
価格交渉は、発注側と製造側のどちらか一方だけが得をするためのものではありません。
継続して取引できる条件を、お互いに探すための話し合いであるべきだと思います。
取引先を長く使えることも一つの価値だと思う
購買をしていると、どうしても目の前の単価に注目しがちです。
しかし、安定した品質で、必要なときにきちんと納品してくれる取引先は、会社にとって大切な存在です。
毎回最安値の会社を探して取引先を変更すれば、その都度、品質確認や打ち合わせが必要になることもあります。
長く付き合うことで、お互いの製品や要求事項を理解しやすくなる面もあります。
私は購買をしていたとき、単価だけではなく、こうした部分も含めて取引先を見るようにしていました。
もちろん、これも絶対的に正しい方法だとは思っていません。
ただ、取引先が安定して仕事を続けられることは、自社が安定して製品を作るためにも必要ではないかという考えは持っていました。
まとめ
製造業では、価格を下げることだけがコスト削減ではありません。
製品を作るためには、材料、加工、検査、設備、人員など多くのものが必要です。
そのため、価格だけを下げ続ければ、どこかに負担が集中する可能性があります。
特に注意したいのは、
- 検査や教育など品質を支える仕事を削りすぎないこと
- 現場の努力だけで値下げ分を吸収し続けないこと
- 購入価格だけでなく、不良や納期も含めて考えること
- 値下げする場合は、仕様や工程も一緒に見直すこと
- 取引先が安定して仕事を続けられる条件も考えること
です。
値下げ要求そのものが悪いわけではありません。
製造側にも改善努力は必要です。
私自身も、自分の購買に対する考え方が絶対に正しいとは思っていません。
ただ、見積価格の向こうには、材料、設備、人、検査など、その品質を支えているものがあります。
だからこそ、私は価格だけを見て判断することには慎重でした。
長く安定した取引を続けるためには、「いくら下げられるか」だけでなく、「その価格で品質を安定して維持できるか」まで考えることが必要だと思います。
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